管理人日記

日記:「風立ちぬ」を観た! 監督はなぜ2つの物語をくっつけたのか

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宮崎駿監督の「風立ちぬ」を観てきました! この言葉が刺さった。

創造的人生の持ち時間は10年だ。君の10年を力を尽くして生きなさい。

あるシーンで、イタリア人設計者のカプローニが主人公の二郎に発する言葉です。この映画は飛行機の設計の話ではありますが、何かの製品、作品、サービスでも、ものづくりに携わる人、何かの仕事をやっている人、これからそういった仕事にかかわることになる学生は一度は見て損は無い映画だと思います。残るものがあるはず。 逆に、ワクワクするジブリ映画を期待して観るのはやめたほうがよいでしょう。 >>続き

この映画を観終わった直後は、少し腹が立っていました。それは劇中での二郎の行動に納得がいかなかったからです。なんでもっと菜穂子さんを大切にしないんだ!なんであそこでタバコを吸っちゃうんだ!

で、ちょっと時間が経って考えていくと、監督はなぜ2つの物語をくっつけたんだろうと思うようになりました。ゼロ戦の設計者である堀越二郎の人生に「菜穂子」は登場しません。もう一人の実在の人物である堀辰雄の小説の中の登場人物です。わざわざ、他の作品から「結核の奥さん」を引っ張ってきているのです。引っ張ってこなけりゃ、前述のタバコを吸っちゃうシーンは無かったはずなのです。看病をほっぽり出して仕事に向かうことも無かったはずです。これはどういう意図なのか?単に薄幸の美女との恋愛を描きたかったから?いやいやそんな単純な理由じゃないでしょ。

本来であれば映画から感じ取るべきなんでしょうが、カンニングしてしまうと、宮崎駿さんのこの映画の企画書には次のようなことが書いてありました。

この映画は戦争を糾弾しようというものではない。ゼロ戦の優秀さで日本の若者を鼓舞しようというものでもない。本当は民間機を作りたかったなどとかばう心算もない。
 自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである。夢は狂気をはらむ、その毒もかくしてはならない。美しすぎるものへの憬れは、人生の罠でもある。美に傾く代償は少くない。二郎はズタズタにひきさかれ、挫折し、設計者人生をたちきられる。それにもかかわらず、二郎は独創性と才能においてもっとも抜きんでていた人間である。それを描こうというのである。

狂気、毒、人生の罠、美に傾く代償。

なるほど。あのシーンは誇張して描かれた「毒」「罠」「代償」だったわけです。監督は逆にそれを描きたかったんですね。だから2つの作品をくっつけた。あのシーンを腹立たしいと思ってしまった僕などは、本気でモノ作りに取り組んでいないってことかと、少し寂しくなります…。

しかし、この映画を「仕事と私とどっちを取るの?」⇒「仕事」といった言い訳を正当化する映画ととらえてしまうのは、ちょっと残念な考えで、男根主義を正当化する映画じゃないと思うんですよ。菜穂子にとっては自分の好きになった人が「自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物」であり、彼が何よりも優先すべきは飛行機の設計。それは二人ともわかっていて、夫婦としての選択の結果なんです。だから、彼らなりに「創造的10年」と「菜穂子と過ごす時間」のどちらも捨てずに精一杯に輝いた人生を送った結果ということなんじゃないでしょうか。これは当人たちの価値観。

今作の主人公・二郎の声優はエヴァンゲリオンの監督である庵野秀明氏。声優に関しては素人。このキャスティングが話題になっています。棒読みすぎて、主人公に感情移入できないといった声も多くあります。確かに、関東大震災でも、戦争があっても、現・三菱重工への就職に成功しても、二郎は淡々としていて、心ここにあらずといったかんじです。個人的には、そこはしっくり来ました。二郎にとっては、飛行機の設計以外はそのくらいものだったのではないでしょうか。人生のステージやイベントがいろいろありますが、一貫してカプローニ氏の夢が登場し、「夢を追い続けること」が強調されています。自分の好きなアニメを作りたいと自分で会社を興してしまった庵野秀明氏にも、似た何かを見出しなのかもしれません。

たくさんの映画監督やクリエイターの方がこの映画を絶賛しているのは、こうした「モノづくり」への姿勢に共感したからではないかなあと思います。

最後のシーンで、カプローニさんが再び登場し、質問してきます。

君の10年はどうだったかね?

そう聞かれたときに、自分ならどう答えられるのか?そう、置き換えずにはいられない、示唆に富んだ作品でした。自分の10年がもうはじまっているのか、いつのなのかはわかりませんが、後悔の無いように生きたい。そう思いました。まずは、自分の中にカプローニさんを探すことが第一歩ですね。

以下、雑感。
・飛行機の設計を行っている時の所作が美しい。特に「計算尺」の精密な描写が素晴らしかったです。
・世界の様々な飛行機が登場して楽しい。思わず、帰ってからWikipediaなどでいろいろ調べてしまいました。カプロニ Ca.60おもしろいユンカース G38かっこいいよ。ナウシカのトルメキアの船はこの変がモデルなんだろうなぁ…。
九試単座戦闘機はやはり美しい
・効果音を人間の声でやっている演出はいまいち意図がわかりませんでした。
・宮崎駿監督の創造的10年はいつだったのか?

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コメント

  • コメント (2)

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    • ぱんだ
    • 2013年 10月 24日

    自分には人生の宝物になる映画でした。
    こんなに写実性の高い作品は見たことがありませんでした。

    本当の意味で共に生きるとはお互いを許し合うということではないでしょうか?

    菜穂子が山を下りた時点で二人の残りの時間は無いことを二人は覚悟をしていたのではないでしょうか?

    菜穂子の横でタバコを吸うシーンとっても良いシーンに感じましたよ。

    100人10色の感想がでるスバラシイ映画だと思います。管理人さんも10年後に見たらまた感想が変わるかも。

    • 2013年 11月 08日

    2つの話を一つにするのは良くあるシナリオ製作の常套手段だけど
    それを消化するにはお話自体がありきたり過ぎて
    片方が正立すればもう片方が壊れるだけの話に成り下がってしまっている。
    もっと効果的な誰にでも理解できるストーリーに出来たはずなのに
    そこまで作りこまれてはいないし、最初からそのつもりも無かった演出が数箇所にも見られる。
    取って付けた様な中途半端な演出だけが残る映画だった。
    このシナリオ、俺なら企画段階で落とすけど。

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